「やみ色のいきもの」

 夜のいのちは短い。陽が沈むと生まれ出で、朝陽が昇れば消えてしまう。一生は、この世界では数時間足らず。夜という儚いものは、その数時間だけこの世界に在ることを許されている。彼らが生を終えるとき、すっと姿が見えなくなって、どこを探しても居なくなる。彼らが居ない時間、つまり太陽が天を離れぬ間、我々のほとんどは夜を忘れてしまう。夜はひかりを食べるので、我々は夜がいる間、ひかりを隠して眠りにつかなければならない。皆は眠ってしまうから、誰も夜の相手をしない。彼らはとても静かで大人しい。冷たい空気を纏っているが、私が知る何よりもずっと優しい。眠る我々に寄り添って、星をひとつ分けてくれる。夜が枕の横に置いてくれるそれを、我々は夢と呼んだ。私は誰よりも夜がすきだった。太陽が天を離れぬ間、夜が消えてしまうなら、朝の光を遠ざけて、地下の倉庫に隠しておこう。まだ小さな夜を捕まえて、地下の倉庫に連れていき、私は扉をそっと閉めた。夜がひかりを食べられるよう、忘れず灯りをつけておいた。次に扉を開いた時には、部屋の隅までたくさんの夜で満ちていた。私は心がはねるほど、きゅっと嬉しくなってしまって、そのまま地下室に飛び込んだ。風を纏うシーツに飛び込んだ時のように、夜は大きくたわんだ後、その大きなからだで私を優しく包み込んだ。心はずっと跳ねているのに体は深く落ちていく。足を置く先も、進む先も、全部が夜の中になる。優しい暗闇に抱かれて、私はかつてないほど美しい星を見た。


(文庫一ページ小説・夜を愛する話)

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